長崎県のさらに西の100Km沖合に浮かぶ五島列島。その中でも最も大きな福江島にある富江というまちの、築80年の民家を私設図書館に改装しました。友人たちと集える場所をつくるのが当初の計画でしたが、地元の方々との意見交換の場で「本に触れられる場所が欲しい」という話を伺いました。家族や仕事から離れてゆっくり本を読む図書館のような場所がほしいけれど、いまの島にはそういう場所がないという話を伺い、図書館をつくることになりました。
図書館をつくることになったはいいものの、本がありません。図書館づくりの計画を周囲に話すと多くのかたが「うちにもいらない本があるから寄贈します」と言ってくれます。ありがたいことではあるものの、いらない本を受け入れてしまっては、限られた本棚がすぐに埋まってしまう。逆に大切にしている本を3冊寄贈してもらうことで他にはない本棚ができるのではないか。そんな考えから「人生の3冊」というアイデアが生まれました。寄贈してもらう人生ベスト3の本には名前、職業、その本を選んだ理由が書き込まれたシートが挟まれています。3冊に挟まれた選書の理由を読むことで、本を選んだ人の価値観の一端にふれることができます。2021年3月現在で、180名近く、540冊の「人生の3冊」が寄贈されました。五島や長崎、福岡、東京はもちろん、シドニー、ソウル、台北、シンガポール、バルセロナ、ベルリン、パリなど、世界中の人が参加しゆたかな本棚がつくられています。
当初、この計画は地名と機能を組み合わせた「富江図書館」という名前で呼ばれていましたが、計画を進める中で、一般的な図書館という枠におさまらないこともできるようにしたいと考えるようになりました。宿泊施設やイベントスペース、コーヒーを飲めるカフェなど、様々な使われかたがイメージされるなかで、図書館と定義しないほうが良いのではないかと考えました。 また富江という地域は、かつて珊瑚漁で栄えたまちでもあります。いまでは数軒の珊瑚加工・販売店を残すのみとなっていますが、賑わっていた当時は一攫千金を夢見た猟師たちが日本中から富江という町に集まってきたといいます。台風などの水難事故でたくさんの漁師が命を失うリスクもあるなかで、海底から宝石珊瑚を引き揚げる夢を見た者たちのロマンが残る町。その地域の文脈をリスペクトし、身近に感じてもらうために、さんごさんという名前をつけることにしました。
現地で館長を務めるのは大島健太さん。大島さんが中心となり、これまで様々な活動に取り組んできました。「こども大学」と題したイベントでは、こどもたちが地域の文化にふれる機会をつくることを目的に、さんごさんを設計した建築家能作淳平さんが富江の建築の特徴をみつけるワークショップを実施。浜口水産という蒲鉾業を営む濱口さんは「ホフホフすり身学」として、魚をつって、すり身にし、揚げて食べるまでを体験するプログラムを実施しました。「おとな小学校」では、大人を対象にブロックチェーン技術で地域通貨の仕組みがどう成立するかを議論するイベントなども開催しました。 地域の人たちの発案でイベントを実施することもあります。富江の花屋さんの提案でクリスマスリースをつくるイベントには幅広い世代のかたが参加しました。コーヒーイベントやデッサン教室から、古本、富江出身のアーティストの展示まで様々なイベントの実績があります。Instagramで施設の様子が公開されています。
館長の大島さんが創業したコーヒー焙煎所とコーヒースタンド。2017年にOPENしました。一杯のコーヒーは、国籍や言葉をこえたコミュニケーションを生み出します。CORAL COFFEEは、コーヒーを通じて人と人を繋げ、富江というまちを日本や世界に向けて発信していくことを目指しています。現在CORAL COFFEEで提供しているコーヒーは、すべて生豆から焙煎されています。定番として提供しているのは、珊瑚の色にちなんで「Pink Coral」「Red Coral」「Black Coral」と名付けた3種類。それぞれ五島の風景をイメージしながら、焙煎度合や使用する豆を変えています。
さんごさんの活動を通して地域と関わりを築いていくなかで、富江が持つ歴史に魅せられた私たちは、縮小してしまった富江珊瑚の魅力を、新しいかたちで発信できないかと思うようになりました。「田中珊瑚店」を営む田中さんと縁あって知り合い、珊瑚のかけらを見せていただきました。珊瑚を加工する際にうまれた「端材」として市場には出回らないものですが、1年で数ミリと言われる宝石珊瑚の成長速度を想像すると、海のロマンを感じずにはいられませんでした。珊瑚のかけらは、かつて富江に集った海の男たちの、夢のかけらのようにも思えます。ジュエリーデザイナーのMMAAが、この端材をアップサイクル。100年前の夢のかけらが、現代によみがえったように感じています。1/35(=珊瑚のかけら)を身につけることで、富江に思いを馳せていただき、いつか足を運んでいただけたなら幸いです。
さんごさん | 長崎県 五島市 富江町 五島列島、福江島。その南に位置する富江という小さな港町の築80年の古い民家。30年ほど空き家になっていたその家が、小さな図書館として生まれ変わりました。「さんごさん」という名前はか... http://sangosan.net/ 1/35 「世界にひとつの、珊瑚のかけら... 1/35 series は珊瑚のかけらが手にできる時にのみ35個ずつ製作されるアクセサリーです。 http://sangosan.net/1/35/